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True End

「不可能性の時代」 大澤真幸

この本の序に「リアリティ・ソープ」という男女の実際の生活を「ドラマ」として放送する番組が紹介されている。また、フランスで放送された「ロフト・ストリー」という番組は、11人の男女をロフトに住まわせ、24時間の行動をだた撮影したもので、この番組の視聴率がサッカーのCLの中継を上回ったそうだ。さらに驚くことは、この番組の出演者を公募したところ、3800人の応募者があったそうだ。他人に見られること、監視されることを忌避しないというよりむしろ監視されることを望んでいるかのようだ。僕の通勤路の途中にあるアパートで、カーテンがなく外から中が見えている部屋があり、そこに若い女性が住んでいるのがわかってびっくりしたことがあった。カーテンを買うお金がないか(あまり考えられないが)あるいは節約しているということなのか事情はわからなかった。電車の中で化粧をするひとも、素顔から化粧した顔に変わることを他人に見られることが平気ということなのだろうか。大澤さんは次のように述べている。

われわれは、監視されていることを恐れ、そのことに不安を覚えているのではなく、逆に他者-われわれを常時監視しうる「超越的」とも言うべき他者に-まなざされていることを密かに欲望しており、むしろ、そのような他者のまなざしがどこにもないかもしれないということにこそ不安を覚えているのではないだろうか。私生活をただ映すだけのサイトや、「ブログ」のような私的な日記を公開するサイトが流行る理由もこうした欲望や不安を前提にしないと説明できない。あるいは、若者が、ケータイへの着信やメールを待ち焦がれるのは、自らが誰かのまなざしと配慮の下にあることを確認し、安心するためであろう。

自由を触発し、強制することにより、かえって自由は萎えてしまう。

本書では敗戦後の時代を、戦後の理想の時代、70年代以降の虚構の時代、95年を境とした不可能性の時代と区分している。オウム真理教の地下鉄サリン事件を虚構の時代の終わりとしている。理想の時代に取り上げられているのは「マイホーム(家族)」「テレビ」であり、虚構の時代では「酒鬼薔薇聖斗」「オタク」「ディズニーランド」「村上春樹」「オウム真理教」を取上げている。「酒鬼薔薇聖斗」の事件は1997年に起きている。

不可能性の時代は、インターネットと携帯電話の爆発的な普及と重なる。現代社会は、現実への逃避と極端な虚構化へと引き裂かれている。現実を秩序づける準拠点となっているのは、認識と実践から逃れてゆく「不可能なもの」である。それは直接には見えていない「不可能性」である。理想->虚構->不可能性という順で、基準的な反現実の反現実性の度合いは高まっている。また、現代社会には極限の直接性を志向するコミュニケーションへの強い欲望が、広く浸透しているのではないか。コミュニケーションの直接性の感覚は、携帯電話の場合に一層強くなる。調査によると「携帯電話の電波の入らないところにいると不安になる」者ほど、あるいは「着信がないか何度も確認してしまう」者ほど、ひとりでいること、ひとりで食事することを辛いと感じる傾向があるそうだ。つまり、携帯電話への着信が、あるいは電波が、友人とともにいることの代理となっている。

われわれは、今や、<不可能性>とは何か、不可能な<現実X>とは何かを、推定しうるところにきた。<不可能性>とは、<他者>のことではないか。人は、<他者>を求めている。と同時に、<他者>と関係することができず、<他者>を恐れてもいる。求められていると同時に、忌避もされている<他者>こそ、<不可能性>の本体ではないだろうか。
われわれは、さまざまな「xx抜きのxx」の例を見ておいた。カフェイン抜きのコーヒーや、ノンアルコールのビールなど。「XX」の現実性を担保にしている、暴力的な本質を抜き去った、「XX」の超虚構化の産物である。こうした、「xx抜きのxx」の原型は、<他者>抜きの<他者>、他者性なしの<他者>ということになるのではあるまいか。<他者>が欲しい、ただし<他者>ではない限りで、というわけである。

僕のようにケータイをあまり使わない人間にとって、ケータイを片時も離さず、通勤のラッシュのなかでも、歩きながらでもケータイを眺めているひとが不思議だったが、その理由のある部分がこの本を読んで理解できたような気がする。少年による特異な事件、オタクの美少女ゲーム、カルト宗教、グーグルの検索から現代政治まで、社会学者の射程が広がっていて大変だと思った。これだけのことに対して目配りしなければならないということが、現代社会を全体としてとらえることの困難さを示しているように思われる。2~5章が僕にはとくに面白く感じられた。

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